さいはての花園

fingers

 浅い眠りの淵で、彼は頬を滑る指先の温度を感じた。

 

 傷が塞がったばかりでざらついているところを撫でられる違和感。

 けれどもう生々しい痛みはなく、彼はそのむず痒さを心地よく感じていた。

 

「ん……」

 

 彼は自分の意識が再び沈むのに任せながら、喉の奥だけで声を漏らした。

 首を辿っていた指たちがそっと離れていく。

 

 ――まだ、離れないで。せめてあと一瞬、眠りに落ちるまで。

 

 彼は自分を傷つけた指先を求めて、水泡のように消えゆく意識の中で乞う。

 けれど願いは叶うことなく、温もりは遠ざかってゆく。

 

 まだすぐ近くに感じる温度も、程なくして扉の向こうへと消えるのだろう。

 そうして彼は今日という日を、一人分の体温を抱いて生きるのだ。

 

 いつもと同じ、鳥かごの中で。

 

 ――温もりを求めて伸ばされた細い指を包む手があったことを、彼は知らない。

あとがき(再録集『さいはての花園』収録作品に寄せて より)

【fingers】 ……二○一五年十月 イベント無料配布

『沈んでゆく時の中で』『檻』を同時発刊した最初のイベントのペーパーの裏につけた短編でした。

新刊がED1とED2だったので、せっかくだからED3も書いてコンプしようかなということで書きました。とは言え、当時はED3が「何」なのかわからない! 一体この二人は何なんだ! という、同じ道を通った方も多いと思うのですが、そこに至るまでの過程が想像できないしこの二人を結ぶ絆はどういった類いのものなのか……という数多の疑問に全く答えられていない状態でした。そんな中で苦悶しながらようやくこの短編を書き上げたのを覚えています。

今は、ED3は「寂しさ」を感じさせる作品が好きです。アキラがただただ人肌の温もりを求め、シキがそれに応える。二人は甘くまぐわって、彼らだけの世界に沈む。とことん破綻しているくせにふとした瞬間妙に人間臭くなる、そんな関係性がいいなあ……なんて思っています。最後に眠ったアキラの手を包んであげるシキの存在をどう描写するか、どのくらい甘くするか……あれこれ悩んだ記憶があります。